朝7時。いつものように本棚を当てもなくガサゴソしていると、目に留まる表紙が。「買ってはいけない」と書かれており、何の本だろうと思って中をぱらぱらめくってみた。その本を読んでから、ダイエットコーラを我慢して30セント多く払い(マレーシアではダイエットコーラのほうが安い)、どんなに腹が痛くても「正露丸」を飲まずに気力で耐え続け(なんか変?)、蚊取り線香を使わなくなり(蚊に刺されまくっても!)、マックに行かなくなった。1~2年ほど前の事だ(友人はずいぶん変な目で見てたなあ・・・笑)。こうしてみると、どうも僕は並外れた精神力を持っているようである(おいおい)。
そして、その本の内容を友人に片っ端から宣伝してまわり、少しずつ「買ってはいけない信者」なるものが現れ始めた。そんな矢先のことだ。ウチの先生が一言。「どうもインチキくせーなあ・・・」それから、僕はいろんな資料を集め、ついにこの「買ってはいけない」という週刊金曜日発行の小冊子がインチキ本である事を認めざるを得なくなった。
たとえば、多く取り上げられている「アスパルテーム」(ロッテ「ゼロ」、味の素「パルスイート」ほか合計5品目)。「アスパルテームを有害とする指摘はあまりに多い。脳神経異常・発がん性・ポリープ発生・目に奇形・生殖障害・体重の減少・血液異常など・・・」(ロッテ「ゼロ」、山本登志子)とあるが、FDAは1994年5月、2004 年12月健常人ではアスパルテームにはアレルギー性はない、フェニルケトン尿症患者ではリスクがあるかもしれないという見解を示している。したがってフェニルケトン尿症やメタノールの毒性を示唆する論は憶測の域を出ない(「パルスイート」の項に関連記述あり)。また発がん性についても、FDAがラットの研究結果(マウントサイナイ医科大学Morando Soffritti博士による研究:胎児の段階から死ぬまでの間FDAの一日許容消費量約2gの二倍のアスパルテームを投与し続けたラットは癌の発病率が上昇が統計的に認められる)に対して「ラットでの調査はヒトの発がん性の証拠として十分でなく、別の研究の結論とも食い違う」とコメントしている。
事実の考証も全然なってない。都市伝説(ま、噂の類ですな)を真に受けて書いたとしか思えない内容が散見される。たとえばp32にマックのハンバーガーについて船瀬氏が書いている部分がある。「・・・あるハンバーガーの場合、牛肉はたったの20%、全体肉量は45%なので「ほかの肉」が何なのか気になる・・・」「かつて文芸春秋に「大手ハンバーガーに乾燥食用ミミズが使われている」と(中略)証言が載っていた・・・」というのだ。
はっきり言おう。ミミズの肉は、今後絶対にマック系のバーガーに登場する事はない。実際に食用ミミズというのは存在するのだが、殆どが薬用や健康食品として使われており、栄養豊富で高価なため、100円の価格帯内でミミズ入りバーガーを実現するのは無理な注文である。ミミズの肉を調理する為にはドロ抜きや細かい下ごしらえが必要であることも、コスト高の一因である。つまり、現在はなまじミミズなんか使うよりも牛肉のほうがずっと安上がりなのだ。(本書ではほかにも「コーラを飲むと骨が溶ける」なんて大馬鹿をぬかしていた著者がいたが、それ自体都市伝説だし、典拠としてしめした実験がなんと「ネズミに2年間コーラを飲ませ続ける」というものだった。普通人間が2年間ぶっ通しでコーラを飲むかあ?)
また、「証言」云々にも問題ありだ。この記事が記載された(とされている)日付は90年11月で、刊行から実に10年ほども前なのだ。やれ「商品テストに精通している」とかなんとか平気で抜かしている著者の船瀬だが、こういうひとにショックを与えるようなことをそんな断片的な引用で済ましてしまっていいはずがない。
まだある。例えば、p64~65の三好医師の記事(「朝のきれいな水」)に「・・・アルカリ性はアルカリ性は体によい,酸性は悪い……こんな迷信が,いまだに続いている。(中略)キリンビバレッジの「朝のきれいな水」の pH は8.5~9.3のアルカリイオン水と表示してある。アルカリ性であれば,からだによいかのような文句が書いてある。」この文章自体は間違っていない。むしろめずらしい正論だ。
ところが、このあとがいけない。先ほど言及したハンバーガーの項で、船瀬氏はこういっている。「・・・動物性脂肪が,心臓病や脳卒中,さらには大腸がんなどの大きな原因であることは,いまや常識である。(中略)さらに,骨折や骨粗鬆症の引き金にもなる。血液が酸性にかたよる食事をしていると, pH(ペーハー)バランスのため骨からカルシウムが溶出するからだ。 「同じ肉でも,油で加熱調理すると,酸形成能力はグンと高まる。(中略)油を加熱調理に使うことで,脂肪が増えるだけでなく,血液がより酸性になり,骨をもろくする・・・」
おいおい・・・。片や俗信を否定し、片や俗信を説く。しかも同じ本の中で、だ。編集者はどこで居眠りしていたんだろ。しかも、巻末では4人で座談会なんかしており、企業に毒舌を振るったりしている。ってか、その前に自分のほうをどうにかしていただきたい。
全部読んで、一番インチキなのはやっぱりダイエットコーラの項だ(p59、渡辺雄二)。まず、「アスパルテームは有害である」という事を納得させようと1ページ半にわたってアスパルテームについて書き、さらに安息香酸ナトリウムの害について触れているが、この安息香酸ナトリウムなるものは、アスコルビン酸なる物と共存しない限り毒性を発揮せず、また最大でも毒素濃度が20ppbにとどまり(1000ppb=1ppm)、現時点でのリスクは評価できない(ドイツ連邦リスク評価研究所)。まあ、簡単に言うと全部ウソである。
読み返してみて著者ら(4人で書いている)にもつくづくあきれ果てた。こんな下手に言ったらケンカになりそうな内容なんだから、せめて出典くらい書いておいてもよさそうなんじゃないか?何か(特にみんなが信頼している何か)を批評するんだったら、参考文献の類は最低限書いておかないといけない。それすらなければそれは本ではなくただのゴミだ。その辺の知識が著者・編集者の中で根本的に欠落している。いずれにしても、こんな誤解を招く本を買ってはいけない。
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